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小説・田中物語「続・ぴさらぎ駅の怪」 - ◆TANAKAQVIk

2019/08/29 (Thu) 22:52:14

極・田中物語 ぴさらぎ駅の怪
ゲームで作りたかったやつですが飽きたので小説で書いていきます

【前回までのあらすじ】
田中たちは花火大会の帰りの電車で寝過ごして「ぴさらぎ駅」という聞いたこともない無人駅へ辿りついた。明かりの一つもない闇夜の中、帰ることを諦めた彼らは宿を求めて駅を出る。
https://ux.getuploader.com/ij0ajfpa/download/9

Re: 小説・田中物語「続・ぴさらぎ駅の怪」 - ◆TANAKAQVIk

2019/08/29 (Thu) 22:53:35

1

「クソッ、スマホも圏外で全く役に立ちやがらねぇ」
田中は周囲の友人たちに顔を向けた。増田たちもスマホを操作しているが田中と同じで一切の通信ができないようだ。
「でも、スマホがあってよかったよね。これがなかったらこの暗い道を照らせないよ」白地は言った。
「だが、いざというときに電池が切れでもしていたら困るな。照明用のスマホは一台ずつ使おう」
尻高が提案すると、一同は同意した。田中を除いて。
「嫌だよ。俺は使いたくねーわ、お前らなんかのために」
「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえ!!てめーの順番は最後にしてやっから、みんなの充電が切れたら絶対に道を照らせよわかったか!!!!」
「最後だろーがなんだろーが嫌だっつってんだろ!!てめーの柿の種の種みたいな色の頭を燃やしてライト代わりにしてやろうか、えぇ!?」
またいつものしょうもない喧嘩が始まり、白地は心底嫌そうな顔をした。すると、それまで操作していたスマホの画面を消して増田は強引に話を進め出す。
「まあ、スマホの電池はそうすぐには切れないから大丈夫だろう。まずは俺のスマホで照らすぜ」
そして増田が歩き出すと、尻高と田中も自然と喧嘩をやめて後ろを歩き始めた。

しばらく歩くと、先ほどまでいた無人駅の場所は捉えようがなくなった。少し遠くの景色ですら、闇に包まれて全く見えないのだ。しかし空と大地の境界は辛うじて捉えることができ、それによると辺りは建物がなく荒寥としているようだ。
「おい増田ァ、ちょっとライトで遠く照らしてみろ」
田中の要求に応え、増田は無言で少し遠くを照らして見せた。田中たちの周囲は雑草の混じった白い砂利道になっていて、道の外れでは草が腰のあたりまで生い茂っている。草が邪魔していて茂みの向こう側の様子は分からない。
「これじゃなんもわかんねえじゃねえか」田中は苛立った。しかし、足元の砂利道は決まった方向へと伸びていることが分かる。
「少し荒れた道だが、道があるってことは人が通ってることには変わりがねえはずだ。この先に何かしらの建物があるはずだろ」尻高が不安げながらも希望的観測を示すと、増田は頷いて砂利道の進む先へと歩き始めた。

そのとき、道の左端を歩いていた田中が声を上げた。「あ…」
「おいなんだよ田中」「え?」尻高と白地は不安を露わにした。
しかし田中の感じ取ったものは彼らの不安をより強めるものだった。
「いや、今…茂みの中で何か動いた気がしたんだけど」
「うそ!!やめてよ」西村のいないこの場では、白地が最も怖がりだ。
「落ち着け白地さん。きっと気のせいだろ、田中」尻高は震える声で冷静を装った。
「ああ、うん…」このやり取りはひとまずここまでだったが、一同の心にはわずかな不安が残った。

そうしてまた20分ほど歩いたように思われた。スマホで時刻を確認するとまだ夜の10時半だ。長い夜になるだろうと先を思い田中たちはうなだれた。砂利道にまばらに生える雑草は歩くにつれて濃くなっていき、気付くと山道のような、木々に覆われた傾斜のある場所に入っていく。周囲には虫の鳴き声が鳴り響いている。
「俺ら、道間違えてないよな?」
「わかんねーよそんなこと」
田中も尻高ももはや不安を隠しきれない。しかし木々の中に建物を見つけた。
「おい、どうする」増田は建物を照らして見せた。それは田中たちを安堵させるような代物では全くなかった。土埃に汚れて色のくすんだ木造のあばら家だ。割れたすりガラスの小窓も見える。その脇が照らされると、そこには半開きの金属のドアがある。蝶番は下側しか繋がっておらず、今にも外れそうだ。
「これは勝手口だな」増田は冷静に分析した。
「ほ、他に家ないの!?」白地の声は震えを増した。
「俺はここで寝泊まりしても大丈夫そうだと思うけど?」田中は能天気に話した。
「馬鹿!!信じらんない!!」白地は焦りと怒りのこもった声で叫んだ。
「だけどよう、ちょっとは周りも見てみねえか?ここ勝手口だし、表口のほういけば他の家もあるかもしれねえ」
尻高の提案に従い、増田たちはあばら家の表側に回った。しかし、建物の灯りや住人の声は一切なかった。
「なあ、ここ、もしかして廃村…」「嘘でしょ!?やだ、信じられない、最悪!!」
「もういいよ。もうどこ泊まっても同じだろ?眠くてしゃあねえよ」もはや田中はこの状況に順応しようと前向きになっていた。

そうしているうちに、上空のはるか遠くから飛行機の音が響いてきた。見上げると、確かに飛行機が赤い二つの光を明滅させながら、闇夜を横断している。
「ここから飛行機に叫んだら声聞こえるかな?」田中が無気力につぶやく。
「無理だろ…」尻高もやはり諦めた様子だった。
白地も助けを求めたい気持ちでいっぱいになったが、この闇の中で激しく動いても分からないことは容易に予想が出来た。
「増田くん、飛行機にライト向けて気付いてもらえない?」
「無理だろ、このライトじゃ」
増田はとりあえずライトを飛行機に向けたが、光の軌跡は闇夜に溶け込んでいる。
「もうしょうがない、このボロ屋敷の中で寝る環境を整えようぜ」尻高はあばら家に向き直り、玄関から中を覗き込んだ。
スマホの照明を持った増田が先行して中に入り、廊下から次々に部屋の中を照らしていく。まず洗面所を見つけ、素通りして次の戸口を見ていくと客間、居間がある。
「ねえ、あんまり奥いくのやめよ?」焦る白地はそのまま奥へ行こうとする増田を制止した。
「和室で寝るのがとりあえず良さそうじゃねえか?てか玄関のカギ閉まる?」
尻高が言うのは増田が最初に見つけた客間だ。尻高の言うように畳張りの和室になっていて、4人分の布団を敷いても余裕がありそうな広さだ。しかしとうの昔に生活感は失われており、今はその面影をわずかに残しながらも、外れたふすまの引き戸が横たわって荒んだ様相を呈し、埃臭さを漂わせていた。
「あたしここでいいよ、もう…」白地はこの家の中ではどこで寝ようと同じだろうと感じ、できれば有事の際にすぐに逃げ出せるよう、入口に最も近いこの客間で朝まで過ごすのが一番だろうと考えた。
「じゃ、ここでとっとと寝ようぜ」田中は倒れた引き戸を割けて畳の上に寝転がった。尻高は戸口から入って右手の壁に背を預けて座り込んだ。増田も人一人分の間を空けてそばに座り込んだ。白地は倒れたふすまの上に座り込み、やがて小さく丸まるようにして横になった。

Re: 小説・田中物語「続・ぴさらぎ駅の怪」 - ◆TANAKAQVIk

2019/09/23 (Mon) 13:28:51

2

ドン… ドン…

眠気の中で朦朧とした白地の意識が戻り始め、やがて明確な尿意に気が付くと立ち上がった。
「白地さん、大丈夫か?」尻高が一言話しかけた。
「ね、ねえ、遠くから何か聞こえない?」
「ああ、うんと遠くの方から太鼓みたいな音がゆっくりとした感覚で響いてきてるな。だがこの感じだと本当に遠くの方だ。外を見てみたが相変わらず真っ暗でわからねえ…」
「そっか…私、ちょっとトイレ行ってくる」「気を付けろよ」
白地は客間を出ていき、引き戸を開けてすぐ近くの茂みの中に入り、すぐさまスカートの中から下着をおろしてしゃがみこんだ。体と息が震えている。

すると、遠くの茂みが音を立てて動き、その動きがこちらへと一直線に近付き始めた。白地はたまらずに大声を上げた。
「白地どうしたあ!!」尻高はすぐさま玄関から飛び出して茂みへ駆け寄った。
「や、や、人、人がいる」白地は下着を上げて立ち上がり、上ずった声で話しながら人気のあったほうを指差した。その方向からは荒い息遣いが聞こえ、場は緊迫した。
「もしかして、ここの方ですか!?」尻高は思い出したようにスマホを取り出し、ライトをつけた。暗闇から人気の正体が分かると、戦慄が二人を支配した。それは年配の男性のようだったが、見開かれた目の焦点は定まっていない。衣服は血にまみれ、手には包丁を持っている。
「あ…あ…!!」二人は危険を感じない訳もなく、男が一歩また歩き出した途端に駆け出した。すると、男も駆け出して二人を追い始めた。二人は玄関に駆け込んで引き戸を閉め、鍵を掛けた。男は引き戸を開けようとしている。
尻高はとっさに叫んだ。「田中ぁ!!起きろぉ!!変なやつがいる!!殺されるぞ!!」客間の戸口の向こうから跳び起きる音が聞こえる。
男は両手で引き戸を打ち鳴らし、大きな声で喚きながら蹴りつけた。
「こいつやっぱり正気の人間じゃねぇ…!!!」「いやあああ!!!」
そしておもむろに男は引き戸の前から立ち去った。
「やべえ!!別の場所から入ってくる気だ!!」
「どうしたんだよ一体?」「気を付けねえと殺されるんだぞ!!」
呑気な様子で現れた田中に尻高が怒鳴りつける。
「待って!!増田くんはどこ!?」「本当だ、いねえ!!」「もしかして…どうしよう!」慌てふためく尻高と白地。
その刹那、田中たちの寝ていた和室の奥の闇の中からしわがれた怒号が響いたかと思えば、その次にそれを圧倒するような爆音が響き渡った。その音は闇夜の静寂をかき消し、廃屋の外に広がっているのであろう暗い夜空に広く広く響き渡った。

白地たちは竦み上がった。一瞬のうちに想像を超える出来事が起きたと思った。しかし田中は迷わず駆け出す。尻のポケットからスマホを取り出して焦る手つきで操作し、眩しいほどのLEDライトを点灯して闇の中を照らす。すると、そこは庭に面した縁側で、和室とそこを隔てるふすまは開け放たれていて、その向こうの庭に田中は二人の人影を認めた。一人は地面に横たわっていて、もう一人は横たわる男に向かってそばに立っている。
「増田…?今のって、お前?」
田中は若干怯えの感情のこもった、間の抜けた口調で闇の中の男に話しかけた。すると聞き慣れた声が返事をした。
「悪い、驚かせたか」
尻高が田中の後を追ってきて、明るくも狭く心もとない光の中をよく見ると、横たわっている男の服装は先ほどの年配の男と同じものだとわかった。しかし、もう少し見てみるとその男の首から上は原形を留めないほどに破壊されていた。その残酷な光景を見て尻高は反射的に叫んだ。
「うわ!!白地さん、見るな!」「ひっ…!」白地はとっさに両手で目を覆った。
「それ何?今の音」田中は質問を続けた。
「お前たちが騒いでる間に納屋で見つけた。散弾銃と弾薬だ。間に合ってよかったな。」
淡々と話し続ける増田の声を、田中は口を開けたまま黙って聞いていた。増田は話を続ける。
「この辺りは武器がないと危険なようだな。どうやらこの物置にはお前たちの分もあるみたいだぜ。明日の朝出発するときに持って行こう」
すると増田の冷静な提案に、尻高も急いで飛びついた。「そ、そうか増田!それは心強いぜ。それとだ、思ったんだが、まだもう一度寝るにしても油断は禁物だよな。俺ら交代して一人ずつ見張りをやるって言うのはどうだ?」
増田はその提案を快諾する。「そいつはいい考えだ、尻高。まず俺が見張りを申し出るぜ。次は尻高、田中の順番でいいよな?白地さんは、そうだな、疲れが溜まっていそうだから俺たちに任せておけばいい」
すると間髪入れずに反発したのは田中だった。「あぁ!?なんで俺がてめーらの寝てるところを見張らなければなんねーんだよ、それで白地はサボりかよ!ふざけんな俺はぜってえ嫌だからな、このフェミニストどもが」
それを聞いて尻高は激怒する。「いい加減にしろよてめぇ!!フェミニストとかそういう問題じゃねえだろ、てめえ今までの白地さんの尋常じゃない怖がり様を見てなかったのか!?白地さんは疲れてんだよ!!」
すると、怯えに怯えて大人しくなっていた白地は、あまりにひどい場の空気を見かねて重い口を開いた。「い、いいよ尻高くん、見張りは全員交代でやろう。こういうときはみんな平等に行かないと」
「いや、白地さん、無理しないでくれ」「大丈夫、私そんなに疲れてないから」ますます心配する尻高を白地はなだめた。
「じゃあ代わりに俺の見張り番はパスで」「てめーいい加減にしろよ!!」全く反省の色のない田中に対し、尻高は再び怒鳴りつけた。

こうして4人は、武器を持った一人を見張りに立てて眠りにつくことにした。時刻は11時半だったので、5時半には日が出ているだろうと仮定して、増田はそこから2時間、尻高も深夜1時半から2時間見張りに立ち、田中は3時半から1時間、白地は4時半から1時間の見張りに立つことにした。

しかし、尻高は自分の見張りの番が終わっても床に就くことはままならなかった。午前3時半、田中に交代の声を掛けても目を覚まさないのである。往復ビンタで無理やり叩き起こすといつものように逆ギレして怒鳴り散らそうとしたので、白地や増田を起こさないように口を塞ぎ、無理やり廃屋の外へ連れ出した。それでも立ったまま舟を漕ぐ田中を見ていると、尻高はいざというとき彼が見張りとして役に立たないだろうと思い気が気でなくて、そのまま眠りに落ちることができなかった。結局、4時半になると尻高は自分で白地と田中に声を掛けて見張り番を交代させた。白地のこともまた心配だったが、田中よりはマシだろうと思ったこともあり、疲れに耐え切れずに眠りに落ちて行った。

Re: 小説・田中物語「続・ぴさらぎ駅の怪」 - ◆TANAKAQVIk

2019/09/23 (Mon) 16:44:11

3

ドン… ドン…

「尻高くん、朝だよ。起きて…」
白地の声で尻高は目を覚ました。気付くと朝焼けで周囲は赤く染まっており、すっかりよく見えるようになっていた。
「ああ、し、白地さん、見張りは大丈夫だったか…」
「うん、大丈夫…。途中、塀の外で草むらを掻き分ける音がしたんだけど、多分ただの動物だったと思う…。」
「そうか、白地さん、そういうときは心配になったらすぐ起こしてくれて構わなかったんだが、何事もなかったんなら、まあいい…」
白地は続けて増田と田中を起こした。
「ふわああ~、なんか腹減って来たわ。誰か食い物持ってねえか?」
田中はダルそうに体を起こす。
「誰もんなもん持ってねえよ、今は帰り道を見つけるのが先だ。」
「しょうがねえな、非常用にとっておいたギャートルズ肉のカレー味でも食うか」
田中はポケットから取り出したアルミホイルの包みを剥がすと、中の骨付き肉を食べ始めた。
「てめえ持ってんじゃねえか!!なに一人だけちゃっかり朝飯食ってんだよ!!」
「うう、お腹減ったよ…」白地は心なしか未だに疲れの取れていなさそうな顔で腹を抑えた。
「こんな得体の知れない場所じゃ食い物にありつけるかどうかも分からないな。長居は無用だ。出発しよう」
増田が立ち上がって歩き出すと、他の一同もそれに続いた。

「どうする、まずはあの駅に戻ってみるか?この時間になったらそろそろ電車も動き出すはずだが」
増田はもっともな提案をしたので、尻高たちは即座に了承した。各々が昨夜発見した物置から散弾銃と弾薬を持ち出していく。
闇夜の中でなんとか辿ってきた道をもう一度見つけて引き返すことは難しくなかった。しかし、山道を下りて行った先にあった駅はどう見ても廃墟そのもので、長年使われた形跡もなければ、電車が来る様子もない。一同は呆然とした。昨日この駅に下車した出来事は夢だったのではないかと疑ったが、そうする暇もないことに気付いた。

「ね、ねえ、あれ!!」
白地が声を上げた。見ると駅舎から荒れた線路を隔てた向こう側に人影が見える。その人影は尋常ではなかった。血に汚れた鋤を持ち、けだるげに足を運び、据わった眼をこちらに向けている。昨晩襲ってきた男と同様の危険なものだと直感した。そしてさらなる異常に気付いた。武器を持った人間は彼だけではなく、周囲の藪の中から続けざまに何人もの武器を持った老若男女が現れてきた。
「こ、これ…ここの村人か…!?」
「んなこと言ってる場合じゃねえ!!逃げるぞ!!」
4人は咄嗟に駆け出して来た道を戻り始めた。
「一体どこへ行くんだよ!?このまま当てもなく逃げるつもりか!?」
田中は息を弾ませながら叫んだ。
「そうだ、太鼓!!昨日の太鼓の音が出てる場所を探そう!!あそこに人がいるかもしれない!!」
4人は昨晩寝泊まりした廃屋のところまでようやく戻ってきたが、そこには目もくれず駆け抜けた。廃屋の向こう側には他にも似たような廃屋が連なっている。そのそれぞれの廃屋の陰から、続々と武器を持った血まみれの男たちが現れた。
「いやああああ!!」
「怯むな!!走れ、太鼓の音はこの先からだ!!」
荒んだ街を駆け抜けていく。再び山道に入り、荒れた道で何度か躓いたり足を滑らせたりしながらも一心不乱に走り続けた。後ろから追ってくる人々を徐々に引き離していった。

そうして辿り着いたのは、荒れた寺だった。確かに太鼓の音はお堂の中から出ている。田中は軋む木造の階段を駆け上がり、入口のふすまを開けた。見ると中には太鼓を叩いている僧侶がいる。僧侶は顔を上げて田中たちを見た。その顔には血の気がなく、表情もなく、なおも太鼓を叩き続けている。
「助けてくれ!!襲われてる!!」
田中は緊迫した口調で尋ねた。
「………ならぬ」
僧侶は淡々と答えた。
「この村から出る方法はねぇのか!!」
田中は質問を続ける。
「ならぬ。この村から出ることはかなわぬ。ここは終わりの場所。お前たちも全てここで終わるのだ」
僧侶は不気味に笑った。
「テメェェェーーーッふざっけんじゃねええーーー!!」
田中はすかさず殴りかかろうとしたが、白地の言葉に遮られた。
「田中くんっ!!もう追いついてきたよ!!」
振り向くと、既に5人ほどの武器を持った村人があと少しで追いついてくるという状況になっていた。田中は僧侶のいる仏堂の中を見渡したが、そこは非常に狭い場所で、隠れられそうな場所はない。
「くっクソおおおおー!!本当にこれで終わりだってのかよ!!」
「終わってたまるか!強行突破だ!!」
仏堂の階段に立っていた増田は、空に向けて散弾銃を発砲した。村人たちは慄いて後ずさりするが、その中の一人はこちらに向かって突進してきた。
「この野郎!!」
尻高はついにその男に向かって散弾銃を向けて引き金を引いた。大きな銃声とともに赤黒い液体がほとばしる。
「走るぞ!!」
村人が怯んでいる隙に4人は駆け出した。

Re: 小説・田中物語「続・ぴさらぎ駅の怪」 - ◆TANAKAQVIk

2019/09/23 (Mon) 16:48:39

4

「一体どこへ行くんだよ!!今度という今度は!!」
「わかんねえ!!行く場所なんてないってあいつも言ってたろ!!」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!!」
「わかんねえ…わかんねえよ… ハッ!!」
尻高は閃いた。昨晩上空を飛行機が飛んで行く光景を思い出した。この村を出入りすることがままならなくとも、上空を行き来することは自由なのではないか。そしてもう一つ思うところがあった。太鼓の音は一晩中鳴り響いていて、今も鳴り響いているが、24時間休まずに太鼓を打ち鳴らし続けているというのか。そんなはずがない。僧侶の身体はとても華奢で、そんな作業に耐えうるようには到底見えなかった。
「ということは…!!みんな、戻るぞ!!寺を捜せ!!」
「なんで戻んなきゃいけねえんだよ!!何を探すんだよ!?」
「スピーカーだ!!あいつは何がしたいのか知らねえが、一晩中太鼓の音を響かせ続けている。だが今の今までずっと太鼓を打ち続けるなんてしんどくてきっと無理だ、どこかで休憩してスピーカーに音を流させているに違いねえ!!そいつで救助を呼ぶ!!」
「そうか、その推理に賭けてみるぜ!!」
寺から逃げ出そうとしていた四人は踵を返し、寺に向かって走り出した。そして寺の裏手に回ると、すぐに目当てのものは見つかった。巨大なスピーカーだ。
「増田!!これを持って山道を上へ走れるか!!こいつで助けを呼ぶ!!」
「ああ行けるぜ!!」
増田はスピーカーを肩に担いで斜面を上へと導く山道に沿って走り出した。しばらく走ると、空に向かって広く展望の開けた広場に出た。
「よし、おあつらえ向けの場所だ。俺のスマホに繋げ!!最大音量でロックをぶっ放すぞ!!」
空に向かってミッドナイト・ライダーズの熱い演奏が放たれ始めた。雄たけびを上げるギター、大地を揺るがすドラムの音、すべてが上空をどこまでも突き抜けていきそうだ。
見るとそばにギターが落ちている。尻高はそれを手に取った。
「よし、俺はこいつをかき鳴らすぜ!!」
空に響くサウンドはさらに熱を増した。
「私はドラムを担当するわ!!」
白地は太鼓を打ち鳴らし始めた。増田がスピーカーを持って行くとき、田中がついでに僧侶から強奪した太鼓だった。ドンガドンガドンガドンガ!!
間もなく、30人ほどの村人が怒号を上げながら山道を駆け上がってきた。しかし、負けじと増田も雄たけびを上げる。
「うおおおおおお!!」
増田は尻高が寺の納屋から持ち出していた灯油缶を村人たちの方へ放り投げた。そしてすかさず灯油缶に向かってショットガン(SPAS-12)をぶっ放した。たちまち缶から炎が激しく立ち上がり、村人たちを飲み込んだ。
「ぎゃあああああああああ!!!」
悪臭を放ちながら火炎はしばらく村人を焼き続け、その間に一曲が終わった。
助けが来る様子はない。白地の表情が曇った。
「諦めるな!!二曲目だ!!」
次の曲が始まった。熱く激しいイントロが先ほどの曲で付いた勢いをさらに盛り上げる。さらに新たな村人の軍勢が押し寄せるが、負けじと増田はスパスをぶっ放し、尻高はギターを村人の脳天に振り下ろし、白地は太鼓を振り回す。
田中は突っ立ってその光景を眺めていた。
「何やってるんだ、こいつら…!?」

「見ろ、ヘリが来たぞ!!」
先ほど村人を焼き尽くした炎が狼煙として決め手となったのだろう、とうとう遠くの空から救助のヘリがこちらへ向かってくるのが見えてきた。
「本当か!!いぃぃぃぃぃやっほぉぉぉぉぉぉ!!!!」
田中は思わず歓喜した。しかし。
「まっ待って!何…あ…れ…?」
白地の表情が凍り付いた。他の3人も白地の見る方向をみた。すると山道の向こう側で砂煙が巻き起こり、こちらを追ってきている村人たちが一人、また一人と砂煙に飲み込まれると、四方八方へと蹴散らされて行く。その圧倒的な力の主に向かって田中たちは目を凝らした。そして言葉を失った。
砂煙の中から姿を現したのは5メートルほどありそうな大きさの身体を持ち、手足も胴体も筋肉で太く硬く盛り上がっている化け物だった。
「おいなんだよあれ、もう終わりだぁ!!」
田中は絶望した。
「諦めるな!!何としてもヘリをここに下ろせ!!そのためには、ここからあの化け物を引き離すんだ。ここに近づけさせるな!!」
増田が叫ぶと尻高は走り出した。化け物の注意を引きつけるため、念のためにフレアを点火させる。眩しい光と白い煙が起こる。その光と煙に気付くと、化け物はすぐさま尻高を追い始めた。しかし化け物の走力はその大きさのせいで錯覚を引き起こしており、すなわち尻高の思っていたよりも速かった。化け物の太い腕が尻高に向かって伸び、対して細い体をわしづかみにしようとした。
「まずいっ追いつかれる!!」
「尻高くん!!それをこっちに投げて!!」
白地の呼ぶ声に反応し、すぐさま尻高はフレアを投げた。白地がフレアを受け取ると、化け物はそれを追って今度は白地に向かって走り出した。
「しめたぞ、これなら時間を稼げる!!」
スピーカーから流れる曲はCメロに入り、最後の盛り上がりに向かう中、白地と尻高が交互に化け物を引き寄せ、壮絶なCHASEが繰り広げられる。
増田は化け物の背中に向かって援護射撃を続けていた。
「くそっ!!全然効かねえ!!」
しかし、時間稼ぎは成功し、ヘリは無事に広場へと降りてきた。音楽は大サビに入り、最高潮の盛り上がりに差し掛かった。あとは4人で乗り込むだけだ。
「よっしゃ!!ヘリが来た!!お前らも早く乗れよ!!」
近くに待ち構えていた田中はすかさずヘリに乗り込んだ。化け物の動きに目を見張っていた増田と白地もヘリに向かって駆け出した。続いてフレアを持って化け物から逃げていた尻高は、ヘリと反対方向にフレアを投げた。化け物が反射的にフレアを追いかけだしたのを見て、尻高もすかさずヘリに向かって走り出した。
しかし、白地と増田がヘリに乗り終え、尻高がヘリまであと少しのところまで近付いてきたところで、化け物はこちらへと踵を返し突進してきた。
「まずいっこっちに来る!!」
「なんとか引き離せねえのか!?このままじゃヘリごとお陀仏にされちまう!!」
ヘリは浮上したが、すぐそばまで化け物は追いついてきた。このまま手を伸ばせばヘリに届いてしまう。そのとき、尻高は妙案を思い付いた。
「田中!!お前の出番だ!!」
「へ?」
「お前今まで手持無沙汰だったろ!!今こそ活躍しろ!!」
増田、白地、尻高の三人は田中の身体を掴み、ヘリの外へ放りだした。
「おい何しやがる!!やめろっ、やめろおおおおおおおおおお!!!」
田中は地面に叩き付けられた。すると化け物はヘリに向かって伸ばしていた手を止め、田中のほうを見た。
「せめてもの餞別だ!!夏休み明けには絶対学校に出て来いよ!!」
増田は田中のすぐそばめがけてスパスを放り投げた。田中はすぐさまそれを掴み取るが、化け物の太く大きい両手もまた彼の身体を掴んで持ち上げた。ヘリは順調に浮上し、田中と化け物の姿は見る見るうちに遠ざかっていく。
「ふざけるなあああーっ!!てめえらああああー!!夏休み終わっても絶対覚えておけよおおおお!!許さねえええええーーーー!!!」
田中の怒号はロックミュージックのフィニッシュとともに山々に響き渡り、村を離れる尻高たちの耳にも届いた。激しく抵抗するかのようにスパスの銃声がこだまし続けた。

その後、尻高たちは無事に自分たちの日常へ戻ることができ、3人で生の喜びを分かち合った。あの「ぴさらぎ駅」は何だったのか。あの廃屋の村と血に飢えた村人たちは何だったのか。あの僧侶は、あの化け物は一体何だったのか。謎が謎を呼び、尻高たちの心に重く大きな疑問を残したが、とにかく彼らはそれを忘れてしまおうと努めることにした。

夏休みが終わると、田中はボロボロの姿で学校に現れた。しかし始業日から1日遅れてのことだったため、無断欠席で担任から生徒指導室へ呼び出され、一学期の素行の悪さが全く直っていないとして散々説教されることとなった。

- 極・田中物語 「続・ぴさらぎ駅の怪」 完 -

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